「やれやれ、やっとついたか」
そう思ったとたん、トイレに行きたくなった。
モントルーからヴィスプへ、ヴィスプから登山鉄道に乗り換えて、ツェルマットまで。普通なら約3時間の道のりだが、モントルーで発車ホームを間違えて一本乗り損なったため、4時間かかった。その間、一度も用を足していなかったのだ。
駅周辺を見回したが、トイレは見あたらない。いいや、観光地だからどこかにあるさ、とそのまま通りを歩き出したのだが……トイレの標識がなかなかみつからない。うう、どうしよう、がまんできなくなってきたぜ。近くのレストランに飛び込もうと思ったが、その日は日曜日。店はたいてい閉まっている。
トイレ、どこー?!
教会前の広場まで来て、ひー、もうだめ、と思った時、ちょうど向こうからやってくる日本人の女の子に出会った。
コンニチワと互いに挨拶した後、
「トイレ、どこにあるか、知りませんか?」
と、わらにもすがる思いで聞いてみた。すると彼女、
「あら、私のホテルがすぐそこだから、よかったらどうぞ」
天の助けとは、このことだぜ!
「お、お願いしますっ!」
彼女のホテルまで、そこから1分もかからなかった。着くなり、私は脱兎のごとくトイレへ直行。
ふー、助かったぜ。もう少しでおもらししちゃうとこだった。
生き返った気分で一息ついた後、彼女の部屋を見せてもらった。日当たりのいいベランダ付きの部屋で、
おおーっ!
なんと、窓から、マッターホルンの雄姿が見えるではないか!
絵葉書そのままの絶景に、私はうるうる感激の涙をこぼしたのであった。
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